A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

対立を乗り越える心の実践(読書メモ)①

読んだ本

対立を乗り越える心の実践: 障害者差別にどのように向き合うか?

対立を乗り越える心の実践: 障害者差別にどのように向き合うか?

 

各引用部位の見出しはブログ筆者による。

第1章

見えない偏見ー障害者を取り巻く問題に現れる心の働き(栗田季佳)

「障害」というラベリングの問題

・一般に先生方は,「障害の有無ではない,また障害名も関係ない,その子を見ることが大事だ」とよく言われます。もちろんそうした姿勢は私も大事にしたいと思っていますが,実は障害というラベルがあるだけで,無意識のうちに子どもの捉え方は変わってしまうことを知っておく必要があるのです

 

自己肯定的な心性

・障害のある人もない人も,他者に比べて自分をより肯定的に捉える,言い換えれば自分をよりよく見せる眼鏡をかけていると考えられる
・逆に,自分を客観的に捉え,他者からどう見られているのか冷静に判断できる人は,鬱傾向が高い

 

差別や偏見につながる「心」

・死を意識しているときほど障害のある人に対して警戒的になる,障害者を避ける
・平均からの逸脱者に対して,あの人変な人だよねと言ったり,それが学校や会社といった組織の中ですと,指導を加える対象として認識したりもします(中略)障害のある人のような少数の人たちを異質であると捉えるまなざしにもつながります

 

顕在化する差別・偏見

・環境が許せば,押さえていたそうした感情[偏見や差別心]が,堰を切ったようにあふれ出ることがあります。
・(一方で)差別も偏見も固定的なものではなく,私たちはそれに対応する柔軟性も持っていると思って良いのです。

 

差別や偏見を乗り越えるには

・障害のある人と身近な関係性を作る(接触体験)こと
→「身近な人に対して優しくありたい」という心性の利用
→「障害のある」Aさんというラベルの解放

・障害者がいるのが当たり前の社会を作る
→「平均」評価を変える

・障害についての「正確な知識や理解」も大切だが,自分という生き物がどういう心の特徴を持っているのかという人間性の理解も必要

第2章

バリアフリーという挑戦ー「社会を変える」ことは可能か(星加良司)

「四つのタイプのバリア」

一つは物理的障壁で,たとえば道路や廊下に段差があって自由に動けない等のことです。二つ目は制度的な障壁で,障害があることによってたとえば運転免許や医師免許といったものの取得に制約がかけられている,といったことです。それから文化情報面での障壁があって,たとえば本書は日本語の文字で書かれていますが,仮に本書の内容に関心のある方に日本語を第一言語としない方や視覚障害の方がおられるとすると,日本語の文字中心の出版文化というものは,情報の入手,情報の理解に多大な困難を伴う環境となっていると言えるわけです。そして意識上の障壁。これは道徳教育や人権教育などの分野でよく使われる言葉ですが,まさしく,偏見とか差別とか無知等々のことです

 

価値づけとバリアフリー

・「価値のある社会的活動への参加にあたって,妨げとなる外的・社会的要因を除去しようとする営みと思想,またはそうした要因が除去された状態」
・社会的な価値づけのプロセスあるいはメカニズム,あるいはそうした価値づけを改変する可能性,時には別の形の価値づけを模索して行く営みを含めて,バリアフリーというものを捉えていく

 

障害学の観点

・実は障害学とは,そのdisabilityについての理解の仕方を大幅に転換することを一つの出発点としています。すなわち,従来のdisability感が,そうした能力を持たない個人の問題,あるいは個人の身体的な特徴に由来する形で無能力という現象が起こっていると考えられてきたのに対して,実は無能力という状態は社会的な構築物ーー社会によってつくられたものーーであると考える認識の転換を図ったのです→【障害の社会モデル】

 

障害学の二つの流れ

・一つは,障害者から社会的,経済的,法的,心理的,さまざまなレベルの力を奪うようなイデオロギーや制度が存在していることを問題視し,それを分析,記述することを通じて,無力化する力(ディスエイブリズム)をなくしていくための方途を探るというアプローチ
・「正常性」とか「健常性」といった規範を絶対視して,それに近づくための実践を人びとに強制するような力(エイブリズム)への批判

 

問題の本質

・障害者に対してマイナスの効果が生まれるのは副次的な作用であって,社会が,今の形で成り立っていくために,ディスエイブリズムやエイブリズムと表現される力が必要となっているという側面があるのでは
・マジョリティにとって有利な社会が生み出されやすいという傾向が一般的にある(→「最大多数の最大幸福」など)
・個人が社会に対してより多くの貢献をするような動機づけを与えることが,社会にとって合理的→システムにとって都合のよい機能を十分に果たせない身体を持っている人は,どうしても社会の周縁部に置かれる,あるいは不利な社会的位置を余儀なくされる
存在論的な安定のために,他者としての障害者という存在を生み出し続けている
・今日取り組むべきバリアフリーをめぐる課題においては,さまざまな障碍者の権利保障のための法整備,あるいはそうした施策の前提となっている,disabilityが社会的構築物であり,だからそれは社会的に解決すべき課題なのだという考え方を広く浸透させることはもちろん重要ですが,(中略)その背後で進行している,マイノリティを周縁化し無力化していく力を強めるような社会的な傾向をブロックすることができるのかというテーマに取り組まなければいけないだろうと思うのです

 

「当事者性」をもって考える

・自分が生きている社会のありようの中で,どのようなバリアが生まれているのか。あるいは,自分自身がバリアに直面した経験がないのだとすれば,なぜないのか,自分はどういう位置にいることによってバリアを経験せずにすんでいるのかということについて考える作業

・知的探求とは,そもそも非常に複雑な事柄をさまざまな角度で見ることを必要とします。あるいはさまざまな知見を組み合わせて,問題の解を見つけていかなければならない。(以下略)