A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

いじめを生む教室(読書メモ)①

第1章「これでいいのか,日本のいじめ議論」より

「いじめ」の現状をめぐって

・現代は,「いじめが増加した社会」なのではなく,「いじめが問題視されるようになった社会」なのです。......しかし,肝心の増減を丁寧に追うことができていない。【p.22】

・メディアによって共有された誤ったイメージは,いじめ議論をも歪めてしまいます。そもそもメディアがいじめを取り上げるのは......「話題性のある特殊ないじめ」が発生した時です。【p.28】

いじめを減らすために

・単純化すれば,いじめ対策は「予防→早期発見→早期対応→検証」のサイクルで回す必要があると言えるでしょう。【p.26】

・いじめ対策においてこれからは,「心理的アプローチ」のみならず,「環境的アプローチ」が必要になります。【p.27】

・災害報道における防災教育に該当する,いじめ問題に対処する方法や,実践的な事例などが,......ポジティブな提案や,命綱を提供する報道が,平時にはほとんど行われないのです。【p.35-36】

〇いじめを「増やす」ことができる→いじめの数は,条件(環境)によって増減する
〇いじめを増やす要因について考える作業は,そのまま「どの環境を改善すればいじめを抑制できるのか」という発想につながる【以上 p.25】

いじめの種類

いじめには大きく分けて,「暴力系いじめ」と「コミュニケーション操作系いじめ(非暴力系いじめ)」の二つがあります。......現代日本の場合,大半のいじめは「コミュニケーション操作系いじめ」です。【p.29-30】

〇「コミュニケーション操作系いじめ」は「犯罪」としての要件を満たさないことが多い→「いじめは犯罪なので警察に」とひとくくりにはできない
〇殴る,蹴る,性暴力を行う,恐喝をする(暴力系いじめ)ことと,モノを隠す,嫌なあだ名をつける,嫌な噂話を流す,無視する(コミュニケーション操作系いじめ)こととでは,対応の仕方も変えなければならない【以上 p.30】

学校以外の選択肢

「学校に行かないなら,他の選択肢を自己責任・家庭責任で選べ」というのが,残念ながら現在の社会です。......私たちは,「ご機嫌な教室*1を増やそう」という議論と,「学校以外の選択肢を拡充しよう」という議論の,両方を同時に行わなくてはならない【p.33】

〇「学校に行かなくてもいい」という意見ばかりが強調されると,具体的な学校改善の議論を成熟させることができない
〇他の選択肢が脆弱な状態で「学校に行かなくてもいい」とだけ伝えると,問題が個人化・矮小化されてしまう【以上 p.32】

第2章「データで読み解くいじめの傾向」

思い込みで語られる「いじめ」

世の中には,適切な研究成果が理解されていないということもあり,「俗流いじめ論」が横行してきました。 【p.38】

〇「戦後民主主義の教育の失敗」「受験戦争などのストレス社会が問題」「道徳教育が失われたから」「日本のいじめは特殊」「最近のいじめはひどい」など→いずれも「当てずっぽう」の議論で,具体的な根拠に欠けている。【p.38-39】

いじめの「ホットスポット

・日本でいじめ対策をするには,教室でのいじめを減らすことが,まず一番のターゲットとなることがわかります。【p.40】

・国の文化や学校制度によって,頻出するいじめのパターンが異なるということ。これは,環境によっていじめの場所や仕方が変化するということを意味します。【p.44】

〇休み時間でのいじめが圧倒的に多い【以上 p.40】
〇過剰管理に置かれた環境での休み時間において,......教室は仲間をいじる,からかうといった形でのストレス発散行為が発生しやすい空間になっている【p.42】

〇日本は他国と比べて,一人へのいじめに関わる人数が多い→「悪しき同調圧力」【p.44】

その他の重要なデータ

〇学校の先生が把握しているいじめの件数と,被害者・加害者が把握している実態とではずれがある→認知のギャップ,継続期間などが理由(?)【p.46-48】

〇男性は「暴力系」,女性は「コミュニケーション操作系」が,相対的には多い。また,女性→男性のいじめは少なく,男性→女性のいじめは少なくない【p.49-50】

〇「いじめは誰もが経験する」+「特にいじめられる人がいる」は両方成り立つ。加害行為も9割近い児童が経験する。→単純な二項対立では把握できない【p.51-53】

〇「いじめのエスカレーション論」(時間をかけていじめの重篤度が高まる)
→ある段階までエスカレートすると,わずかな期間で追いつめられる
→早期発見,早期解決の重要性
→教師が介入したほうが,マシになる可能性は高い【p.53-57】

第3章「大津市の大規模調査からわかったこと」

当てずっぽうの議論をやめ,その学校や地域の特色に合った適切な対応とは何かを議論し続けることが大事なのです。【p.89】

〇部活動における指導においても,いじめの注意喚起が必要【p.63】

〇小学校の場合は,ターゲットが次々と変わり,からかいが連鎖していく形。中学校の場合は,いじめが固定化・長期化されていくケースが多い【p.66】

〇ネットいじめ「だけ」を受ける人はほとんどいない【p.67】
〇教室でのいじめがエスカレートしていく過程で,ネットを用いたいじめも発生する→「ネットいじめ」対策には,ネットリテラシーやネットマナーではなく,コミュニケーション全般に関する適切な介助が必要(ネットだけの問題ではない)【p.72】

〇子どもたちは,誰かに相談することで具体的な解決に結びつくというイメージを持てていない→「もしこの教室でいじめがあった場合,学校側はどのように解決していくのか」というフローを開示しておく【p.74】

〇(大津市のいじめ自殺事件の)報告書では,「いじめ防止教育(道徳教育)の限界」という節を設け,いじめ問題に取り組むためには,道徳の授業などに偏重することのない,総合的な環境是正が必要であるという提言【p.78-79】
→いじめに関する授業をするのであれば,「いじめをしないようにしましょう」「見て見ぬふりをしないようにしましょう」という精神論ではなく,「具体的なSOSの発信法」「相談体制の周知と解決への約束」が必要【p.80】

〇目撃経験によって「どんな理由があっても,いじめは絶対にいけないことだ」「いじめられる人にも原因がある」という認識が弱まる→いじめ被害を仮想的に体験する授業(?)【p.80-83】

〇ストレスを自覚的にコントロールできず,暴力や自傷に結びつけてしまう子どもが少なくない→ストレスケア【p.83-88】

*1:「いじめ等の問題が少ない教室」のこと。同書で用いられているオリジナル用語。