A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

教職の現場で何が起こっているのか

メモ

“教育

“教育"を社会学する

 

第2章「教職に何が起こっているか?」(油布 佐和子)

教職の現状

日々の労働によって疲弊し,精神的な病に追い込まれる教師が増加する一方で,多くの調査研究において,教職への肯定的な見解(「やりがいがある」「満足している」)がみられている。この状況について,「古くからの教員文化=共同体文化」から「経営体としての学校」への移行という観点から論じられる。

「経営体としての学校」の成員

・教師同士が日常的に冗長な会話を通じて交流していた職員室の風景が姿を消し,職業上必要な課題に教員同士のかかわりが限定されてきている

・privatization(「共同体的な紐帯から個人が解き放たれていく」趨勢)は,個々人の主体的な取り組みを推進する上で肯定的な意味をもちうる→個々人の業務の明確化など 

個人化がひきおこすこと

・原子化(丸山眞男)→相互に関連を持たない

マクドナルド化(G.リッツァー)→効率性・予測可能性・計算可能性・テクノロジーによる制御に支配されたシステム→「有用性」の観点から測られる

・機能システムの席捲(田中智志)→「関係の冗長性の衰退」「他者の個体性の忘却」「生の悲劇性(複雑性)の忘却」を引き起こす

個人化する教育

・教師の病気休業が漸増する背景には,こうした〈「経営体としての学校」と「組織の一員としての教師」への変容〉という構図が見て取れる

〈任された役割は,他の誰の役割でもなく,私の役割であるから,私がそれを担い,解決するしかない。解決できないとすれば,それは私の能力=組織のなかの有用性が問われることになる〉→「自己責任」論

個人化しながら「制度化」する

・教師が,経営体の担い手にふさわしいように養成されていく方法が,教員の養成や研修の過程を通じて着々と進展している
→相互に切り離された個人は,外部による制御と標準化を押し付けられる

・個人化がまさに意味していることは,制度化であり......

・専門職化というのは,制度化=標準化を意味する

技術主義の浸透

・有用かどうかという点で評価される→状況に即応的に対応できる〈技術〉主義が横行し,目標が前提とされ,どのようにすれば「効果的に」達成できるかという発想以外は捨象されてしまう

→教育技術法則化運動(例:TOSSランド)

「本時の目的」や教材の意味などについてはまったく触れられない

心理学をめぐる批判

・心理学では,社会関係の問題を,「個人の問題」と位置づけ,問題を個人に回収してしまう

・環境や条件が統制された実験室でつくられた何らかの基準が,具体的な人々の相互関係・活動が展開される場での測定に,はたしてどのような意味をもつのか,あるいは,社会関係を看過したところでつくられた基準を測定の指標とすることに問題はないのか。
ex. 「主体的」という性格態度特性→「困難な課題に果敢に挑む」ことも指せば,「人の指示に耳を傾けない」態度ともなりうる

・問題は社会にではなく,私・個人にあり,「世界は予定調和的に進行していると信じている人,あるいは進行するべきだと信じている人たちが」いて,「この人たちは,“いま・ここ”の状況の予定された調和的進行を妨害する人を見て,彼らは“心の病”に冒されているに違いないと考える」

心理学が浸透する教育現場

・〈思考ストップ〉してしまい,ある枠の中でのみものを考えたり,有用性が求められる状況を根本的に検討するというような発想にはならない

・自由の重みに耐えかねた人々が権威に依存してしまう(フロム『自由からの逃走』)

・自らの認識への自信のなさ,不信,専門家への依存(懐疑主義的態度の不足)

→解釈できない「不安」の解消
→組織への生き残りをかけて,相手方に問題があると「診断」された「客観的な資料」が,「私の責任ではない」という「証拠」になる

おわりに

・教師のやる気と病気休職者の増加=「経営体としての学校」へという組織の変容のなかで,教師が個別化され,有用性によって測られる状況から生じている

・個人化への趨勢が元凶であるにもかかわらず,そこで教師が取る行動は,「個人化」を前提とした知識・技術であるという状況

・「感情労働」をめぐって。EI(Emotional Intelligence)で取り組まれているのは,「状況に気持ちよく対処して,そして搾取されよう」ということ

・考えることや疑問を抱くことが,学ぶことの第一の意義であるにもかかわらず,教える側にいる人間がそれを忘れ,既存の制度や認識枠組みを前提として,思考停止しているところに,またその思考停止が広く教師を取りこんでいくところに最も大きな問題があるのではないだろうか。