A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

理論と証拠の意識的な調節を起こすために

理論と証拠の意識的な調節

Kuhn(1989)によれば、科学的思考の中心的特徴とされる「理論と証拠の意識的な調節」は、成人においても十分に行えないことを示唆している。

第1に、理論と証拠が一致するとき、両者を明確に区別せず、証拠を評価するように求められると、自分の理論を単に繰り返す。

第2に、理論と証拠が一致しないとき、理論と一致しない証拠を認識しないか、選択的に証拠に注意を向けるなど、同一の証拠が好ましい理論と好ましくない理論に対して別々に評価される。

第3に、理論(仮説)を系統的に検討せず、単にその効果を再生し、また、特定の変数の効果を評価する時、剰余変数を統制しない。

出典:湯澤正通. (2011). 科学的概念への変化. 心理学評論, 54(3), 206-217.

では、どのようにすれば「理論と証拠の意識的な調節を起こす」ことができるのか。いくつかの視点から考察してみたい。

 

確証バイアス

 人間は自分の考えが正しいか否かを検証する際に、自分の考えを証明する証拠ばかりを探してしまい、反証情報に注目しない傾向が強い。これを確証バイアスと呼ぶ。ある情報が入ってきた場合、その情報と合致する事例が見つかることによって、その情報は正しいと証明されたような気持ちになりやすい。しかし、これは証明を指示する情報が見つかったと言うだけで、反証を指示する情報の方が多い可能性は十分にあり得るのである。

 確証バイアスの一般的な事例として、血液型と性格の関係がある。人の性格はひとつに決定されるものではなく、通常は様々な特徴を含んでいるものである。しかし、相手の血液型がA型だとわかると、A型の性格として知られている几帳面などの特徴ばかりが目についてしまい、「A型は几帳面である」という情報が正しいものであると認識してしまうのである。

 確証バイアスは当然、科学者にも働く。科学者は確証バイアスを回避するために反証情報に注目するという手段をとっている。この方法は普段の生活の中でも有効で、ある情報が正しいかどうかを確認する場合には、反証情報を先に調べればよいのである。証明する情報を調べるのはその後でも遅くはない。

出典:確証バイアス | 社会心理学

ここで紹介した「確証バイアス」の考え方は、先に紹介したKuhnの第2の指摘に該当する。ここで書かれている対策は、確証情報ではなく反証情報を優先的にみることである。(他人に押しつけても効果がないことではあると思われるが)意図的に反証を調べることは「理論と証拠の意識的な調節」を促す有効な手段の一つといえるだろう。

 

批判的思考と結論導出

平山・楠見(2018)によると、批判的思考能力が高い者ほど、事前信念と不一致な情報をより長く参照するという。これは、能力が高い者ほど情報を深く吟味したためと考えられる。だが、こうした批判的思考能力(+情報参照時間)は、適切な結論の導出に直接的な影響がみられなかった。対して、批判的思考態度は、適切な結論の導出に有意な傾向を示した。

すなわち、批判的思考能力が情報探索過程に影響し、批判的思考態度が次のステップである適切な結論の導出に関与することが示唆されている。つまり、「理論と証拠の意識的な調節」を引き起こす重要なカギを握っていると言えそうである。では、どのようにすれば批判的思考の能力・態度を高めることができるのだろうか。

出典:平山るみ, & 楠見孝. (2018). 批判的思考能力と態度が対立情報からの結論導出プロセスにおける情報参照行動に及ぼす効果. 日本教育工学会論文誌, 41(Suppl.), 205-208.