A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

3つの「科学」のイメージ

「科学をどのようにとらえるか」これは、科学的思考の発達について考えるときに最も根源的な問いといえる。

今回は『現代の認知心理学 5 発達と学習』(市川伸一編)第10章「科学的概念の発達と教育」(湯澤正通)をもとに、科学のイメージ論を見ていく。

同書で、湯澤は科学的思考・概念の発達にまつわる4つの側面を挙げている。

1.推論を支える概念
2.推論に使用する方略
3.推論や問題解決のプロセスを計画し、統制するメタ認知技能
4.推論を支える社会的文脈道具

これらの側面が相互作用しながら、科学者のそれに近づいていくとしている。

 

さて、Lehrer & Schauble (2006)によると、科学のイメージは次の3種類に分類できるという。

1.論理的推論としての科学

形式的論理、発見法、方略を用いた領域普遍的な科学的推論の役割を強調する。

例として、Kuhn (2002) が紹介される。

科学的思考→「知識の追求」
科学的理解(科学理論の形成)→科学的思考の産物

Kuhn (2002) は本物の科学的思考の特徴として次の6つを挙げている。

①既存の理論(理解の仕方)が認識の対象として表象される
②その理論を吟味し、可能ならば改善しようとする意図がある
③理論のまちがいの可能性または修正のされやすさが認識される
④理論を支持(不支持)する可能性のある証拠が認識される
⑤証拠がコード化され、理論と区別されて表象される
⑥理論に対する証拠の意味が同定される(両者の関係が構成される)

 

2.理論の変化としての科学

科学的推論の発達は、新しい事実や理論に関する量的な知識の増加だけでなく、知識の再構造化を含む、領域固有な理論の変化のプロセスであるとみなす。

ここでは、「制約」という概念が紹介される。

制約(Hatano & Inagaki, 2000)

・学習のメカニズムとして機能する好みないし偏りといった形態のもの
・それぞれの領域の事物や現象に対してどこに注目すべきかを誘導するとともに、可能な仮説や解釈の範囲を絞り込む
・知識獲得プロセスを統制する諸要因を含み、その中にはメタ認知的能力や問題解決に使用する方略なども含む。
・子どもの持っている領域固有な理論がその領域における新しい知識の獲得を制約・促進し、みずからを一定の方向に導く

 

3.実践としての科学

理論と推論は、科学の活動全体の一部にすぎず、科学は、参加者(科学者)や機関のネットワーク、話し方や書き方、現象を視覚化し、アクセスし、操作できるようにする表象の発達、道具や測定の方法なども含んでいる。

ここでは、Lehrer & Schauble(2006)のまとめが引用される。

この立場から見ると、科学の学習は、単に、科学的事実の記憶、科学のプロセススキルの習得、メンタルモデルの精緻化、誤概念の修正に還元することはできない。 むしろ、科学の学習は、世界を意味づけ、世界を概念化し、評価し、表象する特定の方法をアプロ―プリエイト(appropriate)することである。

 

参考文献

・市川伸一. (2010). 現代の認知心理学 5 発達と学習. 

本文中で言及のあった文献
・Hatano, G., & Inagaki, K. (2000). Domain-specific constraints of conceptual development. International Journal of Behavioral Development, 24(3), 267–275.
・Kuhn, D. (2002). What is scientific thinking, and how does it develop? In U. Goswami (Ed.), Blackwell handbooks of developmental psychology. Blackwell handbook of childhood cognitive development (pp. 371-393). Malden, : Blackwell Publishing.
・Lehrer, R., & Schauble, L. (2006). Scientific thinking and science literacy. Handbook of child psychology, 4, 153-196.