A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

読書時にアンダーラインを引くべきかについて

世の中には「読書術」と呼ばれるものが数多くある。そもそも「誰かの読書術」が自分にも適しているという保証はなく,読書を重ねていく中で自分に合ったものを見つければいいものではある。だが,効率的に内容を理解したり覚えておくためにどうすれば良いのかというのは気になってしまうところであり,今のやり方が良いのかと不安になることもしばしばある。

今回は,特に「読書時にアンダーライン(下線)を引くべきか」「重要語をマーカーで目立たせるべきか」という疑問について,少し検討してみたいと思う。

 

三宮(2018)より

1.アンダーラインの活用で重要な点が一目でわかる

・ブランチャード(Blanchard, 1985)は,読み返すときに読むべきポイントを絞り込むためにも,アンダーラインが役立つという点を指摘しています。とりわけ,長い文章や難解な文章の読解において効力を発揮します。

・アンダーラインを引くためには,テキストを読みながら内容について判断することが必要になるため,おのずと学習者が深い処理を行うようになるという利点もあります。したがって,ただ闇雲にアンダーラインを引いたり,さほど重要ではない部分にまでアンダーラインを引いたりしても,効果はありません。【p.84】

*引用中の文献
Blanchard, J. S. (1985). What to tell students about underlining... and why. Journal of Reading, 29(3), 199-203.

 

2.情報を目立たせると記憶に残りやすくなる 

・他と異なる,特徴的な(目立った)情報が記憶に残りやすいということは古くから知られており,フォレンストルフ効果(von Restorff effect)あるいは孤立効果と呼ばれています(von Restroff, 1933)。......テキストの読解においても,重要な箇所を目立たせるために蛍光ペンなどでハイライトをつけることで重要な箇所を目立たせるという手法がよく用いられます。

・ハイライトの中でも蛍光色による塗りつぶしは,非常にインパクトがある(刺激が強い)ために,多用すると逆効果になります。それは,あれもこれもと,さまざまな色の蛍光ペンで塗りつぶしてしまうと,テキストが大変読みづらくなるからです。

・塗りつぶしていない箇所は背景に退いてしまうため,元の状態よりもかえって記憶に残りにくくなります。つまり,ある部分を目立たせるということは,残りの部分を目立たせなくすることに他なりません。

・こうしたことから,目立たせ効果は慎重に,少し控えめに使う必要があるといえます。【p.88】

*引用中の文献
von Restorff, Hedwig. (1933). Über die Wirkung von Bereichsbildung im Spurenfeld. Psychological Research. 18. 299-342.

 

参考文献

メタ認知で〈学ぶ力〉を高める: 認知心理学が解き明かす効果的学習法
 

 

藤澤(2017)より

藤澤(2017)は,習得のための学習法として「リハーサル方略」について触れる中で,「アンダーライン」方略と「暗記マーカー」方略を扱っている。ここでいう「暗記マーカー」方略は,いわゆる「赤シート」「緑シート」を用いた方略であり,本稿でのメインテーマとはやや異なるが,合わせて扱っておきたい。

アンダーライン

重要部分に下線を引く方略。下線を引かないよりは注目しやすいが,重要度の判定がよくできない場合には,ページが下線だらけになるだけで,記憶にはあまり効果がない【p.65】。

 

暗記マーカー

教材の重要部分にマーカーで印をつけ,ページに色シートをのせてその単語自体を読めなくして,単語が再生できるかを試しながら暗記する方法。教科書と同一文脈の空所補充問題の対象にはなるが,意味理解を伴っていないので,試験で応用問題が解けるようにはならない。すべての重要語をマークで消すと文脈上に特定の手がかりがなくなるし,一部を選べばノーマーク語が発生してそれが記憶されないので,効率の悪い暗記法といえる【p.65】。

 

参考文献

探究! 教育心理学の世界

探究! 教育心理学の世界

 

 

魚崎(2004 ; 2016)より

ここでは,魚崎(2004)の要旨の内容のみを紹介させて頂きたい。

概要

多くの学習者が実際に下線をひくということが明らかになったものの,その行動が読解成績を高めるわけではなかった

1.再生時期の違い

・学習者自身の下線ひき行動やテキストにつけられたプロンプトによる効果が大きいのは読解直後であり,その後の保持にはそれを超えるような効果は見られなかった。

2.読解時間の長さ

・短い読解時間の中で下線をひきながら読むことは,読む作業そのものにかける時間を削ってしまうために不利に働く

・読解時間を多くかけることによって,内容の獲得と結びつくようになってくるものの,下線をひかない場合に比べて有効な方略であるとは考えられなかった

・プロンプトは,獲得すべき情報を視覚的に知らせることができるために,読解時間に制限がある場合に有効

3.素材の難易度

・単純素材の読解ではプロンプトの存在によって強調部分であるキーワードの再生を高めるという効果が見られたが,学習者自身が下線をひくことによる効果は見られなかった

・複雑素材の場合には,学習者自身が下線をひくこともプロンプトと同様に,重要な情報の再生を高める→下線ひき行動が重要な情報を探索・選択する過程を助けている

4.学習者集団の違い

・プロンプトの存在によって,強調部分の情報の再生は高められたが,それ以外の情報の獲得に対する効果は学習者の能力によって異なる

・読解速度の遅い学習者の場合には,十分な時間がなければ下線部以外の情報獲得を阻害するという負の効果をもつ

 

参考文献

テキスト読解場面における下線ひき行動に関する研究

テキスト読解場面における下線ひき行動に関する研究

 

魚崎 祐子. (2004). テキストを用いた学習場面における下線ひき行動の役割と有効性の検討

魚崎 祐子, 伊藤 秀子, & 野嶋 栄一郎. (2005). 短期大学生のテキスト読解における下線の影響: 読解時間の長さとの関係. 日本教育工学会論文誌, 28(suppl), 105-108.

 

3つの引用からいえること

難易度の高い文章を読む時には,アンダーラインやマーキングによって理解を促進し,記憶に残りやすくするという効果が得られる。難易度が低いときには,あまり効果はみられない。

・線やマーカーをひく量は「控えめに」して,線やマーカーだらけにならないように留意することで効果が得られやすくなる。

・文章を読みながら,語の重要度判定をすることが難しい(特に,とりあえずたくさん引いてしまう)人には向いていない。

文章読解が遅い人は,プロンプト(強調)が存在しない部分の情報獲得が阻害されるので,アンダーラインやマーキングを引いたとしても,のちに上手く利用できない可能性が高い。

読解時間が限られているときは,アンダーラインやマーキング行動によって読む作業そのものにかける時間が減るので不利に働く。特に,文章読解が遅い人は,無理に引かないほうが良いだろう。

直後の再生においてのみ,アンダーラインやプロンプトの効果が表れるので,日常的な読書行動においては,アンダーラインをひいてもひかなくても,記憶の保持に大きな差はない可能性が高い。一方,国語の試験のような場面では,アンダーライン方略が大きな効果を発揮する可能性がある。

・「赤シート」「緑シート」学習法は,それだけをやっている限りでは,あまり効果の高い暗記法とは言えない。→このあたりは稿を改めて。

 

まとめ

アンダーラインをひく方略やマーカーでハイライトさせて読む方略には,ある程度の効果が見られることが分かったが「読解が速い人が,難しい文章に対して,『控えめに』ひく」場合に効果があり,それ以外の場合では,あまり大きな効果が得られないということが示されている。そもそも,文章を読む途中で「線をひく」という他の作業をすることは,認知資源の配分という観点から考えても,読字&文章理解を少ない資源でこなせる,熟達者にしか適さない方法であると考えられる。以上をまとめれば,アンダーライン方略の使用は理論上は「特定の条件下で」効果が得られるといった程度にとどまるだろう。

本稿で指摘しきれなかったことについて最後に指摘したい。これは,国語の問題などで非常に多いのだが「なんとなく字を追っているだけで,内容の理解をきちんとせずに先に進む」という読み方をする人がいる。また,読んでいる途中で「眠くなってしまう」という声も幾度となく聞いてきた。こうした人に対しては,アンダーライン方略が有効である可能性がある。アンダーライン方略のメリットとして「重要度判定をしながら読む」ことだけでなく,「手(腕)を運動させながら読む」という点が挙げられる。直接的な得点向上につながるかどうかについては検討が必要だが,ふつうの読み方でうまく読めないときに,アンダーライン方略が効果を示す場合もある。読解速度が遅いから使ってはいけない・使っても“絶対に”意味がないということではない。最後に改めて指摘しておきたいのは,結局,自分で試行錯誤しながら「自分に合った読み方」を見つけることがもっとも重要である。本稿をそうした検討の材料として頂ければ幸いである。