A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

素朴概念をめぐって

素朴概念は「理論」?「断片的知識」?

素朴理論の研究者の多くは、素朴概念が「理論」としての整合性を持ち、概念発達には、知識構造の再編を含んでいると考えている。

対して、diSessa(1993)など一部の研究者は、理論として理解することに懐疑的であり、むしろふだんの生活では、個々の事象を個別に説明しようとしており、あえて統一的な解釈はしようとしないと考えている。

diSessa(1993)は、人がふだん経験し、観察した出来事から個別に構成した知識を「現象的原理(phenomenological primitives)」と呼び、素朴概念とは、ある現象に対して適切な現象的原理を適用するのに失敗した結果だとしている。現象的原理は限定的な状況であれば、むしろその理解を促進する。すなわち、科学理論の形成に必要なことは、メタ認知をはたらかせ、解釈しようとする現象にとって適切な現象的原理を適用し、そこに一般化した法則が成り立つことを理解することであるのだという。

素朴概念の変化をうながすために

多くの研究者は、あえて「認知的葛藤」を引き起こし、子どもたちが自らメタ認知をはたらかせて、自分の考えを批判的に問い直し、素朴概念を科学的概念に修正できるような方法を工夫してきた。「両概念の食い違いに対して説明を構成させる」(Chan et al.,  1997)「両概念のアナロジーを考えさせる」(Clement, 1993)等の研究がこれまで行われ、近年では、高垣・田爪・降旗・櫻井(2008)が「コンフリクトマップ」という方法を試みている。

前節で後者に紹介したdiSessa(1993)などの主張に基づけば、科学教育の課題は、ばらばらな知識をつき合わせて、よりまとまりのある考え方に変えることを支援することにある(Linn & Eylon, 2006 など)。Minstrell(2001)は、科学的現象に関する子どもの多様な考えを「facet(ファシット)」と名づけて整理している。これを用いて、教師は子どもの持つ考えを把握したうえで、その考えに応じた教授方略を行うことを提案している。

より深く学ぶために

湯澤正通. (2011). 科学的概念への変化. 心理学評論, 54(3), 206-217.

参考文献

市川伸一. (2010). 現代の認知心理学 5 発達と学習.

本文中で言及した文献
・Chan, C., Burtis, J., & Bereiter, C. (1997). Knowledge building as a mediator of conflict in conceptual change. Cognition and instruction, 15(1), 1-40.
・Clement, J. (1993). Using bridging analogies and anchoring intuitions to deal with students' preconceptions in physics. Journal of research in science teaching, 30(10), 1241-1257.
・DiSessa, A. A. (1993). Toward an epistemology of physics. Cognition and instruction, 10(2-3), 105-225.
・Linn, M. C., & Eylon, B. S. (2006). Science Education: Integrating Views of Learning and Instruction.
・Minstrell, J. (2001). The role of the teacher in making sense of classroom experiences and effecting better learning. Cognition and instruction: Twenty-five years of progress, 121-149.
・高垣マユミ, 田爪宏二, 降旗節夫, & 櫻井修. (2008). コンフリクトマップを用いた教授方略の効果とそのプロセス. 教育心理学研究, 56(1), 93-103.