A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

差別論(3)心理学からみた差別②

今回読んだ論文

池上 知子(2014)差別・偏見研究の変遷と新たな展開.教育心理学年報,53,133-146.

前回までのブログ

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差別・偏見を解消する試み

・内集団と外集団の区分自体を変容させることによって集団間バイアスを低減できる

・交差カテゴリー化
集団間の対立軸となっている次元とは別の次元を意識化させることによって,対立を先鋭化させている次元の顕現性を低減する
→新たな対立軸を生むなどのリスク

・カテゴリーの区分自体の消滅
→結局,内集団・外集団区分の温存につながってしまいやすい

・偏見の自己制御モデル(Devine & Montieth, 1993)
偏見に基づく反応を表出すると,これを自ら抑止する心的過程が自動的に起動するしくみを個人内部に作りあげていく必要性

・リバウンド効果(Macrae, Bodenhausen, Milne, & Jetten, 1994)
偏見や差別に囚われないようにと強く教示されると,言語的記述内容のステレオタイプ度は減少するが,実際の相互作用場面では,逆に差別的な非言語行動が強まる

・相手のカテゴリー属性から目をそらさせる

新たな挑戦

接触仮説(Allport, 1954)
偏見は相手に対する知識の欠如が大きな原因であると考えられることから,相手と接触する機会を増やし,真の情報に触れれば,偏見はおのずと解消する

接触が効果をもたらすために必要な条件として,
①多数者集団と少数者集団が対等の立場で共通の目標を追求するような接触であること
②両者の接触が制度的に是認されていること
③両集団に共通する関心や人間性の認識を促す接触であること
が挙げられており,「協同学習」などで実践されている。

・集団間友情(Brown & Hewstone, 2005)
 互いの集団所属性を意識しつつも個人化された親密な交流を行うこと

・拡張接触(Wright, Aron, McLaghlin-Volpe, & Ropp, 1997)
内集団のメンバーの中に外集団のメンバーと親しい者がいるということを単に知るだけで,その外集団に対する態度が好意的になる

・仮想接触仮説(Crisp & Turner, 2012)
自分が外集団のメンバーとうまく相互作用できている場面を想像することによって,外集団への態度が好転する
→メンタルトレーニングのような機能が期待

・潜在認知の変容可能性に関する議論
Dasgupta(2013)によると,潜在認知がさまざまな情報への接触を通して無自覚に形成されるのであれば,そこには本人の意識的能動的選択の余地はなく, 周囲の情報環境がそのまま反映されているに過ぎないことになる。もしそうであるなら,個人の置かれている情報環境を変えれば,おのずと潜在レベルで形成されている連合ネットワークも変化する
→Gawronski & Bodenhausen (2011) による「連合命題評価モデル」においても同様の議論がなされている

最近の動向

書籍

差別や偏見に関するここ2~3年の書籍としては次のようなものが挙げられる。(あいにくほとんど未読なので順に読み進めていきたい)

レイシズムを解剖する: 在日コリアンへの偏見とインターネット

レイシズムを解剖する: 在日コリアンへの偏見とインターネット

 
紛争・暴力・公正の心理学

紛争・暴力・公正の心理学

  • 作者: 大渕憲一,田村達,福島治,林洋一郎,熊谷智博,中川知宏,上原俊介,八田武俊,佐々木美加,山口奈緒美,高久聖治,小嶋かおり,福野光輝,佐藤静香,渥美恵美,川嶋伸佳,鈴木淳子,青木俊明,浅井暢子,加賀美常美代,山本雄大,潮村公弘,森丈弓,戴伸峰,近藤日出夫
  • 出版社/メーカー: 北大路書房
  • 発売日: 2016/03/01
  • メディア: 単行本
  • この商品を含むブログを見る
 
悪意の心理学 - 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ (中公新書)

悪意の心理学 - 悪口、嘘、ヘイト・スピーチ (中公新書)

 
偏見や差別はなぜ起こる?: 心理メカニズムの解明と現象の分析

偏見や差別はなぜ起こる?: 心理メカニズムの解明と現象の分析

 

論文など

最後に,本ブログを書きながらいくつか読んだものを紹介しておきたい。

三船恒裕, & 横田晋大. (2018). 社会的支配志向性と外国人に対する政治的・差別的態度: 日本人サンプルを用いた相関研究. 社会心理学研究, 34(2), 94-101.

同論文では,社会的支配志向性(SDO)と,政治的態度や差別的態度の相関を調べている。結果,日本人においても,SDOと外国人への差別的態度,政治的態度の相関が示されている。

SDOが高いほど移民の受け入れや国防費の減額、尖閣問題での話し合いでの解決に反対し、憲法9条改正や竹島問題での強硬策に賛成し、外国人に対するネガティブな印象や外国人を忌避する態度、在日朝鮮人に対する差別的態度が強くなる傾向が示された(三船・横田,2018)。

吉住隆弘. (2018). 生活保護受給者への偏見に関連する心理学的要因の検討. パーソナリティ研究, 27-3.

同論文では,生活保護受給者への偏見をめぐる心理学的要因の分析を行っている。その結果,国家主義との弱い正の相関,視点取得との弱い負の相関が示されている。

池上知子, 高史明, 吉川徹, & 杉浦淳吉. (2018). 若者はいかにして社会・政治問題と向き合うようになるのか. 教育心理学年報, 57, 273-281.

(論文というよりも教育心理学会の企画シンポジウムの資料である)
政治参加に関する論のようで「差別」をめぐるお話も強く関係している。非常に重要な知見の集まった資料である。

高史明. (2017). 差別という暴力 (特集 暴力: どこから生まれるのか? いかにして克服できるのか?). 心理学ワールド, (77), 13-16.

「フェアネス」という観点を中心に現代的レイシズムについて書かれた非常に読みやすい論考である。

・差別というのは,このようなフェアネスに関わる問題とみなすことができる。差別とは,もっぱら社会的集団のメンバーシップにもとづいて,そこに属する人々と他の人々の扱いに差をつけることを指す。メンバーシップにより異なる扱いをすることが是正すべき問題となるのは,フェアネスという規範に抵触したとき

・マイノリティの権利が保障されるようになることに対して,それまで特権的な地位にいたマジョリティが自分たちの権利が不当に脅かされていると感じることを基盤とする偏見は,他の様々なマイノリティに対しても見出されている。日本においても,昨今インターネット上で流行する「在日特権」の言説にみられるように,黒人に対する人種偏見と相似した在日韓国・朝鮮人への偏見が存在する

・マジョリティであるというだけでマイノリティよりも豊かな暮らしができて当然だと考える人々の「アンフェア」への怒りは,昨年末の米大統領選の帰結など,現代社会の力学を分析する上で欠かせない枠組みとなっている。これらの(それ自体がフェアとは言えない)「アンフェア」への怒りに対して,社会科学者は共感する必要も「寄り添う」必要もないが,理解する必要はあるだろう