A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

批判的思考力の育成にむけて

「批判的思考(Critical Thinking)」が、今後はさらに求められていくように思われるので、2019年最初の記事は、批判的思考力の育成について、道田(2013)の見解を中心に大ざっぱに書いてみたいと思う。

批判的思考力を育成するための3つの問い(道田, 2013)

  1. どんな批判的思考力を育てたいか
  2. その思考力がなぜ必要なのか(求められているのか)→必要性の問い
  3. 受講生の現状はどうか(何が欠けているか)→現状の問い

批判的思考力の3要素(1に関連して)

 道田(2013)は、批判的思考の3要素として、①合理性・論理性、②反省性・省察性、③批判性・懐疑性を挙げ、三角形で整理している。

f:id:amtmt322:20181231105412j:plain

批判的思考の大三角形(道田, 2013 より)

 これらの中から、自らが身につけたい批判的思考力を選択することが重要であるという。「批判的思考力」と漠然としたものを考えるのではなく、具体的なスキルに落とし込んで考えていく方が、イメージもしやすく、適切な養成も行いやすいということだろう。もちろん最終的にはすべての力を揃えることが重要なのは疑いないが、どの力を重点的に養成するかを把握することで効率的な養成を行えるだろう。

大学生の実態(3に関連して)

 道田(2001)の指摘で、大学生は論理的に問題のある文章を論理的に指摘することが得意ではないことを示している。更に、平山・楠見(2004)は、対立する二つの意見をきちんと理解して、適切な結論を導き出すことも難しいと示している。つまり、先ほどの3要素に当てはめれば「論理性」「反省性」の問題が大きいことが示唆される。こういった問題点を発見するには、心理学で考案されてきた尺度やテストなどを用いるのが効果的だろうが、自己省察という意味では、内省することも重要だろう。このプロセスが適切に行われることで、それぞれの実態に合った思考力育成につながる。

論理性・反省性を高めるためには?

 論理性を高める手段としては、批判的思考スキル教材などの「ツール」を用いることが挙げられている。ガイダンス資料や、考えるための視点・問いを明確に示すことも重要なツールになりうるだろう。

 反省性を高めるには「習慣化」と「他人の力を利用する」ことが挙げられている。話し合うことが効果的であることは、沖林(2004)などが明らかにしているが、適切なツールやガイドがないと適切な方向に深まっていかないことも指摘されている。近年の学校教育では「協同学習」が流行しているようだが、ただ「話し合う」だけの授業ではいかに意味がないかをこの研究は示唆している。

 さらには、批判的思考技能を持っていても使わないことがあるという点についても確認しておく必要があるだろう。

学校教育で「批判的思考」を養成できるか?

 近年は、科学教育を中心に「批判的思考」の養成を試みる研究が行われている。例えば木下・中山・山中(2014)は、小学生に対して「クエスチョン・バーガーシート」というツールを用いて批判的思考を促す授業実践を行った。その結果、「反省的な思考」「根拠の重視」という2因子において実験群が有意に高い得点を示している。だが、まだこうした実践例は多いとは言えず、近年の実践研究を総合的にメタ分析を行った結果としても、あまり高い効果量を示しているわけではない(雲財・山根・西内・中村, 2018)。

 だが、批判的思考力がいわゆる「21世紀型のスキル」とされている以上、態度面・スキル面の両方から学校教育が関与する必要はあるだろう。本年はこうした研究を積極的に追いかけていきたいと思う。

 

参考文献

道田泰司. (2013). 三つの問いから批判的思考力育成について考える (特集 批判的思考と心理学). 心理学ワールド, (61), 9-12.

木下博義, 中山貴司, & 山中真悟. (2014). 小学生の批判的思考を育成するための理科学習指導に関する研究. 理科教育学研究, 55(3), 289-298.

雲財寛, 山根悠平, 西内舞, & 中村大輝. (2018). 理科教育における批判的思考の育成を目的とした授業実践の効果. 日本科学教育学会研究会研究報告, 33(3), 1-4.