A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

対立情報との接触が態度に及ぼす効果

目次

読んだ論文

小林敬一. (2016). 対立する情報との接触が態度に及ぼす効果. 心理学評論, 59(2), 143-161.

「対立」の種類

①「主張」の対立

・各情報の中で特定の問題に対して相反する立場が表明されている

・特定の問題に対して相反する事実的言明が提示されている

②「フレーム」の対立

フレーミングとは

・それによって人びとがある問題を特定の仕方で概念化したり,その問題に関する自身の思考を転換したりする過程

争点フレーミングの対立の例

・「健康診断の新基準は医療費削減につながる」 vs 「健康診断の新基準は病気の潜在的リスクを過小評価している」

③「論証」の対立

(同じ争点・異なる争点かを問わずに)ある争点に関する主張とその根拠(主張を支持する理由や裏づける証拠)が含まれる,論証の形式における対立

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異種混交性研究が示す接触効果

・社会的ネットワークの異種混交性が高い実験参加者ほど,態度変容の程度(提示した論証文の説得効果)も大きい。

・Visser and Mirabile(2004)によると,自分にとって重要な他者の中に,自分と同じ意見の者だけでなく異なる意見を持っている者もいるという認識が問題に対するアンビバレント感情を引き起こしたり態度の確信度を低下させたりすることで,態度が変容しやすくなるという。

・特定の問題を巡って(少なくとも)主張が対立する情報との接触は,情報源が自分の社会的ネットワークを構成する他者であれば,その問題に対する態度を軟化させ,その変容を促進する。

競合的フレーミング研究が示す接触効果

・競合的フレーミング研究の知見をまとめると,取り上げる問題の側面が異なっていても,フレームが対立する情報との接触は,態度の形成・変容に一定の影響を及ぼすといえる。ただし,その影響の方向や強さは主として,競合的フレーミング情報との接触が同時か継次か,対立するフレームの強弱,(継次接触の場合)先に形成される態度の頑健性によって変わる。すなわち,競合的フレーミング情報との接触が同時の場合,対立するフレームの強さが同等であれば,各争点フレーミング情報の効果は相殺されるが,フレームの強さに差があれば,強いフレームに沿った態度が形成される。継次接触の場合,最初に接触した争点フレーミング情報で形成される態度の頑健性が高いと初頭効果が,頑健性が低い(あるいは低下する)と新近効果が現れる。

態度の極化研究が示す接触効果

・受け手が特定の問題に対し肯定的あるいは否定的な態度を有していて,かつ(バイアスがかかった同化研究の知見から)その態度がアクセス可能な場合,論証が対立する情報との接触で少なくとも認知された態度の極化が生じる。

態度の極化

対立情報との接触で既存の態度がより強まる方向に変化する現象

バイアスがかかった同化

対立情報の受け手が自分の事前態度と一致する情報をより肯定的に評価し,一致しない情報をより否定的に評価する傾向

まとめ

・対立情報との接触が態度に及ぼし得る効果は次の 6 つに集約できる。

(a)既存の態度を和らげ態度変容を起こしやすくする(態度の軟化)
(b)各情報の相反する作用を中和し穏健な態度の形成を促す(相殺効果)
(c)強い情報に沿った態度の形成を促す(片面効果)
(d)先に接触する情報に沿った態度の形成を促す(初頭効果)
(e)後に接触する情報に沿って態度を変容する(新近効果)
(f)受け手の認知レベルで既存の態度を強める(認知された態度の極化)

・少なくとも主張が対立する情報との接触は,それが社会的ネットワークに由来する場合,主張の対立(すなわち,社会ネットワーク内にある意見の相違)を焦点化し,態度の軟化をもたらす。
・主張が対立する情報でも,(各主張に根拠を伴う)論証が対立する情報との接触は,社会的ネットワークに由来せず,かつ長期記憶内の既存態度がアクセス可能な状態にあれば,論証の対立(すなわち,既存態度を肯定する論証 対否定する論証)が焦点化される。
・そして,各論証に焦点を合わせた情報の処理(バイアスがかかった同化)を介して認知された態度の極化が生じる。

・一方,公的問題に肯定的あるいは否定的な既存態度がなかったり既存態度のアクセス可能性が低かったりする場合,論証形式の情報かどうかにかかわらず,フレームが対立する情報との接触は,フレームの対立か一部のフレームを焦点化した情報処理を導く。すなわち,競合的フレーミング情報それぞれとの接触に時間的ギャップがなく,かつ対立するフレームの強さに差がない時には,フレームの対立が焦点化され,両フレームの拮抗し相反する作用により相殺効果が生じる。
・同時に接触しても,対立するフレームに強弱の差がある場合,強い方のフレームが焦点化されて後続の情報処理を左右し,片面効果が現れる。競合的フレーミング情報との接触が継次的な時には,最初に接触する争点フレーミング情報が頑健な態度の形成を促しそれが持続すれば,その情報を特徴づけるフレーム(先行フレーム)に沿った初頭効果が生じ,頑健な態度が形成されないか,あるいは形成されてもそれが時間の経過とともに減衰すれば,後に接触するフレーム(後続フレーム)を焦点化した処理で新近効果が生じる。

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