A Critical Thinking Reed

学んだことのメモ。考えたことの記録。主に心理学。

悪と全体主義(読書メモ)①

読んだ本

ハンナ・アーレントについて少々調べる機会があったので,そのついでに読んでみた著作。以下,印象に残った記述をチャプターごとにまとめておきたい。

はじめに~序章

・この二作[『全体主義の起原』・『エルサレムアイヒマン』]を通じてアーレントが指摘したかったのは,ヒトラーアイヒマンといった人物たちの特殊性ではなく,むしろ社会の中で拠りどころを失った「大衆」のメンタリティです。現実世界の不安に耐えられなくなった大衆が「安住できる世界観」を求め,吸い寄せられていくーーその過程を,アーレント全体主義の起原として重視しました。【p.10-11】

アーレント全体主義を,大衆の願望を吸い上げる形で拡大していった政治運動(あるいは体制)である,と捉えています。これは,ごく一部のエリートが主導して政治を動かす,いわゆる独裁体制ーーあるいは,政治学で「権威主義」と呼ばれるところの,特定の権威を中心とした非民主主義体制ーーとはまったく違うものであるということです。大衆自身が,個人主義的な世界の中で生きていくことに疲れや不安を感じ,積極的に共同体と一体化していきたいと望んだーーと考えたのです。【p.23-24】

第1章

反ユダヤ主義ユダヤ人憎悪は同じものではない
・(ユダヤ人が再び迫害の対象とされたのは,)西欧で勃興した近代的な「国民国家」が,スケープゴートを必要としていたからであり,そこには国家の求心力を高めるための「異分子排除のメカニズム」が働いていた【p.32-33】

・強烈な「共通の敵」が出現すると,それまで仲間意識が希薄だった人々の間に強い連帯感が生まれ,急に「一致団結」などと叫ぶようになるーー。これは,今でも(意外に身近なところで)見られる現象です。【p.39-40】

国民国家形成期におけるユダヤ人解放は,ユダヤ人同士の間にも差別意識を生んでいた【p.53-54】

ユダヤ人をどう処遇するかということについて,政権の中枢にいる人々と一般民衆との間には意見のズレがありました。しかし,ユダヤ人を排除することが賢い政策ではないと分かっていても,『シオンの賢者たちの議定書』のようなものが流布し,それを信じた民衆がユダヤ人への憎悪・反感を募らせていくと,政治家はそれを無視できなくなります【p.54】

・国家を同質なものにしようとすると,どうしても何かを排除するというメカニズムが働く
・「政治の本質は,敵と味方を分けること」
・自分たちは悪くない,と考えたい。それが人間の心理です。つまり,自分たちの共同体は本来うまくいっているはずだが,異物を抱えているせいで問題が発生しているのだーーと考えたいのです。【p.57-59】

第2章

・英国人から抑圧を受けることになったボーア人は,自分たちの“下”にいる非白人にその圧力を転嫁するようになりました。差別されて,劣等感を覚えるようになった人が自分より“下”を見つけ,徹底的に差別することで,プライドを取り戻そうとするのは,私達の日常でもよく見られる現象ですね。彼らは,「人間とも動物ともつかぬ存在に対する恐怖」から人種思想を生み出し,非白人への差別と,暴力による支配を強めていきました。
ボーア人が「非常手段」として生み出したのが「人種」思想【p.72-73】

・人権を実質的に保障しているのは国家であり,その国家が「国民」という枠で規定されている以上,どうしても対象外となる人が出てしまいます【p.106】